カンボジアにおける政府開発援助プロジェクトにおける法律及び税務上の問題について知っておくべきこと
March 25, 2024
Note: All activities, publications, and events mentioned in this post were conducted under the name VDB Loi prior to our transition to Andersen in Cambodia on 18 September 2024.
ODAプロジェクト実施のために、入札の落札者に求められる事業形態は何ですか。
カンボジアで事業を行うための事業形態
要するに、外国企業が事業を行うためにはカンボジアで事業体を登録する必要がありますが、法人である必要はありません。カンボジアの商業企業法(LCE)によると、3つの形態のいすれかを選択することができます。
- 駐在員事務所
- 支店(海外企業の支店であり、負債はすべて海外企業に帰属する)、または
- 子会社(海外の親会社から独立して責任を負うことができる新会社)
この3つの形態のうち、駐在員事務所はLCEで業務範囲にかなり制限されています。殆どの事業活動を行うことは禁止されています。そのため、外国投資家がカンボジアでプロジェクトを実施する際に採用する形態としては、支店と子会社が一般的です。
カンボジアでのODAプロジェクトの事業形態
カンボジアにおける典型的なODAプロジェクトは、他国の政府または国際機関からODAによって資金提供される政府入札プロジェクトとなります。2021年に官民パートナーシップ法(PPP法)が制定された後、カンボジア政府はODA資金提供者からの具体的な要求を考慮しつつ、PPP法を政府プロジェクトの管理全般に適用する傾向にあります。従って、ODAプロジェクトの事業体の形態に関する具体的な要件を理解するためには、PPP法とその3要素の標準作業手順書(SOP)を参照することが有益です。
PPP法第7条では、契約締結の権利を有する民間事業体は以下と定めています。(i) カンボジアで法的に登録された事業体。(ii) カンボジアで登録された外国商事会社またはカンボジアで登録された特別目的会社。または、(iii) 他の法令に基づき特別な権限委譲を受けた公的機関。
上記に記載したとおり、外国投資家がカンボジアでODAプロジェクトを行う場合、支店と子会社の2つの形態が考えられます。LCEは支店に対して「外国人である自然人または法人が禁止されている行為を除き、現地法人と同様に、商品やサービスを定期的に売買し、製造、加工、建設に従事すること」を許可しています。法律上では、支店が建設サービスを実施することが明確に認められているため、外国の建設請負業者がカンボジアでプロジェクトを建設する際に支店を設立することは一般的な選択肢です。一方で、子会社は、外国投資が制限されている以外のあらゆる分野で事業を行うことが可能です。
さらに、ODAプロジェクトの入札者は、事業体の形態に関する特別な要件があるかどうか、入札書類を注意深く確認する必要があります 。
入札者の特別問題
ここではPPP法とその標準手順書(SOP)を考察します。PPP法では、当該プロジェクトの民間パートナーの選定は、一般的に競争入札方法で実施されるものと定めています。直談判/特殊方法は、カンボジア王立政府の承認がある場合にのみ使用することができます。
入札者の基準
入札者資格は、各プロジェクトのプロジェクト情報覚書に記載されています。SOPは入札者の基準サンプルをいくつか提供していますが、特定のプロジェクトの仕様によって変更される可能性があります。SOPに提供されているプロジェクト情報覚書のサンプルによれば、事前資格審査段階での入札者基準は以下のようになります。
- 本国で正式に登録された個人、法人であるか。或いは前述の事業体で構成されるコンソーシアムであること。
- 入札者、コンソーシアムメンバー、または請負業者の3者のうち少なくとも2者が技術的資格を満たしていること。
- 過去15年以上の必要分野での経験、運営及びメンテナンスの経験、過去のプロジェクト完了証明書等を有していること。
- 必要な認証、例:ISO9001/ISO14001認証、主要職員の証明書等を有していること。
- 必要な財務能力資格を有していること。
原則として、カンボジアの現行法に従って事前資格入札者の所有権構成に制限は課されません。
二段階入札の手順
入札者の選定は、事前資格審査入札を伴う2段階2封筒プロセスで行われるのが一般的です。例外として、5,000万米ドル以下のプロジェクトの場合には、実施政府機関(IA)の所長は一段階手順(事前資格審査の付かない2封筒の入札手順)を使用することができます。
1段階プロセスと2段階プロセスの違いは後者には事前資格審査という追加ステップが含まれることです。入札者が入札書を提出する前に、IAはまず事前資格審査書類の提出を求め、所定の基準を満たすと思われる入札者を確認します。通常は、3~5社の入札候補者を事前資格者としてリストに登録し、そのリストに登録された入札者にのみ入札書類が発行されます。
これは、事前資格審査ステップを逃した入札者は、その後の入札プロセスに参加する資格がないということです。
従って、入札者は、特定のプロジェクトに適用される入札手順に注意し、事前資格審査ステップを逃さないようにする必要があります。
事前資格審査会議及び事前入札会議
2段階プロセスでは、IAは入札参加者と2回の会議を行います。一回目は事前資格審査書類を提出する前、通常は事前資格審査への招待状の発行から 30日以内です。二回目は入札書を提出する前、通常は入札書類の発行から14~45日以内です。両方の会議では、入札者は入札書類と基準の条件を明確にするためにIAに質問することができます。IAは会議の議事録を作成し、会議に出席した入札者に議事録に署名してもらい、そのコピーを入札者に提出します。
これらの会議は事前資格審査基準または入札書類の修正につながる可能性があります。従って、入札者は必ず会議に出席し、会議の議事録を保管する必要があります。
入札の技術的及び財務的評価
SOPによれば、入札書類は技術入札と財務入札に割り当てられる比重を規定するものとし、通常は技術入札が30%、財務入札が70%となります。合計点数の上限は通常1000点で、その結果、技術入札の合計点数の上限は300点、財務入札の合計点数の上限は700点として割り当てられます。技術入札と財務入札の評価点数はこの比率に基づいて調整される場合があります。
入札保証金
入札保証金の額は、プロジェクトの規模によって異なります。金額は妥当なものでなければならない。通常100万米ドルを超えないものとします。入札保証金の有効期間は、入札有効期間満了後少なくとも60日間とします。
入札または契約締結前の入札者の課題
入札プロセスのタイムライン
全体として、PPP法及びSOPは、プロジェクトサイクル全体や入札プロセスの各段階について詳細なタイムラインを示していないが、特定のステップのタイムラインを時に表す場合があります。結局はプロジェクトサイクルの完全な流れのタイムラインは不明です。現在の実務と経験に基づけば、入札者の獲得と契約プロセスには約3ヶ月から6ヶ月かかります。
契約交渉の期限
最上位の落札者が選定されると、IAは落札者とプロジェクト契約締結のための交渉を開始します。PPP法では、交渉開始日から6ヶ月以内に交渉が完了できない場合、IAが次順位の落札者を代わりに契約交渉に招待することができると明確に規定されています。
これは元の落札者との交渉を終了するための強制的なルールではありませんが、落札者はできるだけ早く交渉を期限内に終了することが望ましいです。
事業体設立
外国企業が入札に参加することは可能ですが、プロジェクト契約を締結する際には、通常、カンボジアに事業体を設立し、登録する必要があります。プロジェクト契約締結前にカンボジアで事業体を設立する必要はありません。SOPでは、落札者はプロジェクト契約締結後、最長60営業日以内に事業体の設立を完了することができます。このようなシナリオでは、新設法人は落札者との間で、プロジェクト契約における落札者の全ての権利と契約上の義務を引き受けるため、法人設立後14営業日以内に更改契約書を締結する必要があります。
また、プロジェクトの建設が開始される前に、IAと落札者側のプロジェクト事業体によって、多くの事が行われる必要があることに注目してください。例えば、プロジェクト事業体は、詳細なエンジニアリング設計を完了し、環境認可を取得し、主要請負業者と建設契約を締結し、その他の同様な条件を整える必要があります。同様に、IAは所定の期間内に詳細なエンジニアリング設計を承認し、建設開始のために合意された土地を提供し、その他の条件を満たす必要があります。従って、落札者はIAと緊密に協力し、期限を守る必要があります。
準拠法及び紛争解決
PPP法では、PPP契約はカンボジア法に準拠すると定められています。但し、民間パートナーは、カンボジアの公的事業体が当該契約の当事者でなければ、PPP契約の実施に関連する付帯契約に適用される準拠法を選択することができます。
PPP法は、IAと民間パートナーの間で発生した紛争に関する紛争解決方法を限定していません。紛争解決方法は、話し合われてPPP契約で規定されます。実際に、外国仲裁条項がカンボジア政府によって受け入れられた実例があります。また、紛争に外国の事業体が関与する場合(例、国際仲裁条項等)、或いはカンボジア事業体のみの場合(例えば、国内仲裁の選択)、当事者は異なる方法を選択することになるでしょう。
ODAプロジェクトの納税義務とは。
ODAにはカンボジアのような発展途上国に提供される二国間援助と多国間援助が含まれます。二国間援助は、特に国家を直接支援することを目的としたもので、金融・投資協力が含まれ、コンセッションローン及び無償援助の形で行われることが多いです。特に、国際協力機構(JICA)がODAの一環としてコンセッションローンを提供し、開発推進に重要な長期低利融資を提供しています。 [1]
カンボジアにおけるこれらの開発プロジェクトの多くは、JICAとカンボジア王立政府との間で締結されたコンセッションローン契約を通じて支援を受けています。その結果、ODAプロジェクトの枠組みの中では、円滑な実施と経済成長を促進するため、特定の免税措置が認められています。
ODAプロジェクト免税の範囲
カンボジアのODAプロジェクトの枠組みの中における免税措置は、プロジェクトの成功促進のために特別に仕立てられたものです。これらの免税措置の範囲は、通常以下の通りです。
- ODA事業の実施に必要な建設資材、工具、機材の免税輸入・再輸出特権。
- プロジェクト落札者及びその直接下請業者への、プロジェクト利益に直接関連する取引に係るVATの免除。
- プロジェクト範囲内で得た収入に対するプロジェクト落札者への源泉徴収税(WHT)及び法人所得税の免除。
- ODAプロジェクトに従事するプロジェクト落札者の従業員に対する給与税(TOS)及びフリンジベネフィット税。
但し、これらの免除はODAプロジェクトに直接関係する活動にのみ適用されることに注意が必要です。この範囲を超える取引はカンボジアの標準的な税法及び規制の対象となります。従って、ODAの免税範囲を理解することは、投資家がカンボジアのODA支援プロジェクトに関与する際、コンプライアンスを確保し、財務上の有益を活用する上で極めて重要です。
ODAプロジェクト参加者の納税義務
2023年5月16日付カンボジア税法(LOT)では、ODA契約を通じてプロジェクト実施に関与する会社は、支店であれ子会社であれ、特定の納税義務を負います。カンボジア国内で組織され、管理され、または主要事業所を有する事業体には、税務上の登録が義務付けられています。
この登録には、すべての税務関連事項を識別するための納税者番号の取得が含まれます。これらの企業はさらに、カンボジアの税制を遵守するために月次及び年次の税務申告を行う義務があります。カンボジアの課税年度は1月1日から12月31日までで、納税申告は翌年の3月31日までに提出します。
ODAに基づく免税が適用されない場合、企業は該当する支払いに対してTOS、FBT、WHTを源泉徴収する義務があります。例えば、ODA案件の道路建設に従事するプロジェクト落札者の支店が、プロジェクトとは無関係の事業開発のために営業担当者を雇用する場合、支店は営業担当者に代わってTOSとFBTを源泉徴収し、納付する必要があります。
税務当局の課題:支店の利益送金に対する源泉徴収税
最近の税務紛争事件を考えると、ODAの落札者、特にカンボジアで支店として営業している落札者は、日本の本社への利益送金について警戒する必要があります。みなし配当金に対する源泉徴収税の課徴に関する最近の事件に例示されるように、租税総局(GDT)が実施する税務調査から1つの重大な問題が生じています。
このような場合、GDTは支店から本社への利益送金は配当として扱われるべきであると主張しています。これは、支店が別法人として、株主に支払われる配当と同様に、親会社に利益を分配していることを意味します。その結果、GDTはこれらのみなし配当に対してWHTを課税しようとします。 これは、受取者(本社)に代わって支払者(この場合は支店)が源泉徴収し、GDTに納税する必要があります。
但し、このアプローチは、特にODAプロジェクトに関与する外国企業の支店の文脈では、議論の余地があります。商業企業法第271条により、支店は本社とは異なる法人ではなく、同一法人です。従って、配当は株主への支払いであり、会社は自分自身に配当を支払うことはできないため、支店から本社への利益送金は配当にはなりません。
この紛争は、不必要な税負担を回避し、税制を遵守するために、ODA資金によるプロジェクトの利益送金に関する法的及び経済的な実態を明確にする重要性を暴露しています。
税務当局の課題:ODAプロジェクトにおける外国人従業員の給与税
某税務紛争事件において、GDTはODAプロジェクトの枠組みの中で日本人(または外国人)従業員のTOSに異議を唱える税務更正を開始しました。このような税務更正は、みなし給与に左右されることが多く、 GDTは、月収が実際の数字よりも「高いはず」とみなしています。例えば、GDTの監査では、日本人従業員の月給を3,000ドルと仮定することがありますが、実際の給与は1,500ドルです。また、実際には給与を受け取っていないにもかかわらず、取締役が給与を受け取っているという疑惑が生じる場合もあります。
但し、LOTが税務評価に実際収入の使用を強調する規定を明確に概説していることを認識する必要があります。第42(6)条では、カンボジアの源泉給与を国内で稼いだ賃金として具体的に定義し、誇張された仮定ではなく実際の収入に依拠することの重要性を強調しています。
さらに、第46条では、居住者である従業員の課税対象となる月給を強調しており、これには、カンボジア国内と外国の両方から得た収入の合計が含まれます。これらは、支払うべき税金を決定するために実際の収入を使用する必要があることを強調しています。想定される不労収入に基づいてTOSを課すことは、雇用主から従業員に支払われる給与に関するこの基本原則に反します。
従って、ODAプロジェクト参加者は、LOTの遵守を確実にし、外国人従業員のTOSに関するGDTの問題に関連する税務リスクを軽減するために、引き続き注意しなければなりません。
条件
カンボジアの法律や規則は、指令や指示を含めて体系的 に公表されておらず、文書化されていない慣行によって補 足されたり、矛盾したりすることがあります。そのような実 務は、裁判所によって判決されたり、立法機関によって制定 されたりしていない可能性があり、予告なしに変更される 可能性があります。
弊社の法律および税務に関するアドバイスは、カンボジア の法律、規制、および公的実務に対する理解に基づいてい ます。重要なことは、当局や裁判所が弊社のアドバイスに 従わない法律の解釈や適用を採用する可能性を排除でき ないことです。
[1] JICA. “Official Development Assistance (ODA)and ODA Loans.” Accessed on 19 February 2024 and retrieved from: https://www.jica.go.jp/english/activities/schemes/finance_co/overseas/index.html.
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